乾蕎麦を食べてもっとそばへ。 十日町乾蕎麦研究所は、人と文化を美味しくつなぎ、細く長くしあわせな暮らしを応援します。

乾蕎麦ブログ

各種イベントの情報など、乾蕎麦にまつわる様々な話題をお知らせします。

2013年2月20日

レポート

唯一無二の乾麺、十日町のへぎそば工場を見に行く

実は、いま工場見学がブームです。
機械が並ぶ風景にトキメク工場萌えなる言葉も登場するほど。

十日町乾蕎麦研究所も乾蕎麦の工場見学を企画しました。
お邪魔したのは、松代そば義屋さんの工場。
雪が降り積もる2月でした。

乾蕎麦工場全景

訪れたのは、缶詰博士としてテレビやラジオ、イベントでも引っ張りだこの黒川勇人さん
黒川さんのレポートです。

◎そば大好き!

僕はそばに目がないほうだ。
ウマいそばがあると聞けば、わざわざ食べに出掛けて行く。
ウマくないそばだって、普段からよく食べる。
駅の立ち食いそばなんかがそうで、これは毎回
「ウマくないなァ。そばっていうより、ほとんど小麦粉だなァ」
心の中で文句を言いながら、それでもやっぱり立ち寄って、食べている。
僕にとって、蕎麦はうどんよりも日常食なのだ。
蕎麦にこだわりを持つ男は多いようで、
各自それぞれ、蕎麦に対して一家言も二家言も持っている。
僕だって負けてない。三家言くらいは持っている。
食べるときは、まず、そばつゆに浸けないで生のまま、味わう。
そのあと、わさびをちょいとつけて、味わう。
それからやっと、そばつゆに浸けて手繰る。
「まずはそばだけの風味、食感を愉しみたい」
この思いである。
こういう男は、やがて、製麺する際のそば粉の割合なんかにもうるさくなる。
二八(小麦粉2:そば粉)が絶妙だとか、外二八(小麦粉2:そば粉10)がいいとか、
いちいちうるさい。しかし大抵の場合、
「やはり十割そばが最上」
という方向に向かうようだ。
十割そばというのは、そば粉100%を湯でこね上げ、製麺するものだ。
むろん小麦粉は入らないし、つなぎの山芋なんかも入らない。
「つなぎが入るのは邪道。そば粉のみで作った方がそば本来の風味が出ていい」
そば好きには、こんなことを言う人が多い。
混じりっけなし。純粋、生一本。
こういうものに、男は憧れるのだ。
しかし、そんなこだわりを、あっさりと砕いたそばがあった。
それが、新潟県十日町市で食べた[へぎそば]なのであります。

へぎそばとは、“へぎ”と呼ばれる杉板の箱に盛られたもので、
新潟県魚沼地域が発祥。そば自体の特徴としては、
そば粉のほかに小麦粉、布海苔(海藻)がつなぎとして混ぜられている。
十割そば至上主義の人からすれば、混ぜもの入りのそばということになる。
「そんなにつなぎを混ぜちゃったの?」
非難しつつ、ひと口手繰ると、これが驚くほど美味。
まず、口中へ入れる瞬間の、つるっぬるっとした食感がたまらない。
そして、噛むとほのかに磯の香りがする。
これは布海苔が入ったことによる食感・風味なのだ。
さらにすごいのは、このへぎそばは、乾そばでも抜群にウマいということ。
茹でたてのものを出せば、風味が豊かでしっとりした食感がある。
それは生そばと間違うほどの美味しさだ。
これほどハイクオリティの乾そばは、どうやって作られているのか?
どうしても知りたくなった僕は、十日町市松代にある[松代そば善屋]の乾麺工場に行ってみた。

0
松代そば善屋の工場にやってきたぞ!

1
ひと口分ずつ美しく盛られるへぎそば

2

◎ひみつその1 雪解け水でこね上げる

へぎそば作りの最初の行程は、
そば粉、つなぎの布海苔をこね上げること。
巨大なミキサーにこれら材料を入れ、
その上から塩を溶け込ませた水を注ぎ入れてこねていく。
この塩水濃度は5%(ボーメ)ほどと、同社専務取締役の小堺氏が教えてくれる。
「この塩を溶かす水は地下水です。
雪解け水がゆっくりと地下に浸透していくため、たっぷりと養分を含んでいます」
そば作りには水も大切な役割を果たしているのだ。

3
巨大なミキサーで生地をこねていく
鮮烈な地下水に、ゆっくり時間をかけて塩を溶かし込む

4

◎ひみつその2 二枚に伸ばして再び合わせる

こねた生地は6段ローラーによって少しずつ伸ばされ、
2枚の薄い生地となるが、最後には1枚に合わさってカットされる。
2枚に合わせることで、切れにくく、弾力のある歯応えを実現したのだという。
6段階に並ぶローラーは壮観

◎ひみつその3 乾燥は一晩かけてじっくりと

約4メートルの長さにカットされたそばは、
パイプに二つ折りにしてかけ、乾燥室へ運ばれていく。
折りたたんでも2メートルの長さがあるので、
パイプは天井近くに設置されたチェーンに引っかけられ、
それがゆっくりと乾燥室内を進んでいく仕組みだ。
この光景が面白かった。室内は湿度70数パーセントに保たれているので、
カメラのレンズも曇るほど多湿。そこを天井から足元まである長いそばが、
まるでカーテンのように揺れながら進むのだ。
揺れるのは天井に取り付けられたファンのせい。
一定の(とはいえ季節によって変えている)温度・湿度で室内を満たすためだ。
乾燥に必要な時間は12時間だという。
温風を当てれば短時間で乾くが、
それでは表面だけが乾いてしまい「美味しいそばにはならない」と小堺氏はおっしゃる。

5-1
乾燥室のそばは幻想的だった

6
気温や湿度で室内の条件も細かく変えていく

◎ひみつその4 分厚い包丁でカットして結束、梱包

乾いたそばは袋詰めのためにカットされる。
このカッターがとても分厚く、かなりの重量級だ。
どうしてこんなにごついものを使うのか小堺氏に伺うと、
連続使用しても刃こぼれをしないものが必要だという。
加工食品に金属片が混ざるとクレームのもとになる。
そのため、カッターも頑丈、かつ切れ味抜群の一級品を使うのだ。
そういえば、新潟は刃物の名産地でもあったなァ。
こうして切り整えられたへぎそばは、
機械によって1食分ずつ結束され、
袋詰めされ、出荷を待つばかりとなる。
この行程はオートメーション化されてはいるが、要所要所で人が関わっている。
カットしたそばを束ねたり、目で見て品質を確認したりと、
最後は人の手と目が必要になってくるのだ。
これは日本の製造業すべてに共通する、
ものづくりへのこだわりと情熱の証しでもある。
最後に、小堺氏に乾そばの美味しい食べ方を伺ってみた。すると
「製造後すぐのものより、時間が経ったもののほうが美味しい」という。
乾そばも寝かせておくことで熟成し、より味わいが深くなるというのだ。
それが分かっている客の中には「かびが生える寸前が最高!」という粋人(?)もいるとか。
つなぎを入れることによって、唯一無二の美味しさを獲得したへぎそば。
そんなへぎそばのファンになった人たちが、今、僕の周囲にどんどん広がっているところだ。
美味なるものは人と人とをつなぐのであります。

7
鋭く頑丈な刃。これでそばを切り整える

8
目で見てチェックする熟練の従業員

9
工場を出ると雪が舞っていた